ヘラクレスオオカブト② (雷山千如寺:福岡)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・前回のつづき。

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「――大丈夫か?」
心配そうに、坊主が覗き込みます。
「なんとか血は止まったようだ・・・ガラポン4等のウェットティシュが役にたった。」
額をティシュで押さえながら、脂肪の坊主が答えます。
秋風が吹き抜ける寺の境内に、夕暮れが迫ってきました。
「ところで、何を話してた?さっき・・・・・・。」
「――生物多様性に関してだ。」
「セーブツタヨーセー?」
「異常なことも、繰り返せば真理だってことだ・・・。」

その時です!
大きなバールを抱えた小柄の“おいやん”が、暗くなった木陰から現れて、そのまま本堂の賽銭箱に駆寄ります。
床と賽銭箱の隙間に、バールの先を押し込み、体重をかけて床から引き剥がそうとします。
「お、おいあれ――。」
剥がれないと見ると、バールを逆手に持って箱の蓋を横から突き始めました。
やめさせようと飛び出すのを、手で制しながら・・・。
「――取り合うな!警察公認の賽銭ドロボーだ。」
「警察コーニン?」
「現行犯でも警察は逮捕しない、拘らん方がいい・・・。」
「――どうして!」

予期せぬ頑丈さに、賽銭箱の正面に立って、首を傾げています。
「半年前、地元の警察に現行犯逮捕されたとき、逮捕した警官が心臓発作で亡くなった。護送中のパトカーの中で突然倒れたんだ・・・。」
「更に、担当した刑事も取調べ中に体調を崩して、2日後に亡くなる・・・くも膜下出血だった。」
「そのあとを引き継いだ刑事が、出勤中の交通事故で亡くなるに及んで、ついに警察署の誰も取り合わなくなった――取調べが出来ないから起訴も出来ない、拘留期限がきて証拠不十分で釈放された。」
「現行犯で逮捕して、証拠不十分か?」
「よく調べてみると、他の警察署でも似たようなことがあって、都合18人の警官があの男のまわりで亡くなっているのが分ったんだ。」
「――みんな気味悪がって寄り付きもしない、目の前で盗んでいても見てみぬふりだ。」
「――偶然の死も、繰り返せば真理か。」

バールを大上段に構えると、薩摩示現流よろしく、気合一閃腰を深々と割り、そのまま賽銭箱に振り下ろします。
鋭い金属音がしてバールが吹き飛び、ぎゃっ!と叫んで両手を股の間に入れ、苦しそうに床の上に蹲ります。
「寺や、神社は困るだろ。」
「今じゃみんな賽銭箱で対処している。此処の箱も鋼鉄製で、床下のコンクリートにしっかりアンカーしているから、あのくらいじゃ壊せない・・・。」

両手で賽銭箱を抱え、足を踏ん張り、顔を真っ赤に歯を喰いしばって後ろ向きに反り返り、同時に何やらうめきはじめました。
暫くその姿勢でうめいていましたが、急に力を抜くと、顔をしかめて背中を押さえます。
「――腰痛めたな。」
その場で何度か屈伸したあと、よろよろ立ち上がり、奇声一発吐き捨てるようにして走り去りました。
「どうやら、諦めたようだ・・・。」

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眼下の闇に街の灯が燈りはじめました、秋の陽はつるべ落としです・・・。
振り返ると脂肪の坊主が、さっきのクヌギの幹を盛んに蹴っています。
「――おい、手伝ってくれ、カブトムシ捕まえて、街のホームセンターに今から売りに行く・・・冬支度の前の臨時収入だ。」
「それを云うなら、お前の場合、冬眠前だろ・・・・・・。」

何処までも呑気な、3人でした。

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